英国のカントリーサイドめぐり

イギリスのカントリーサイドを彩るブルーベルの花 Bluebell

湖のほとりを2時間くらい歩いただろうか。ビジター・センターが見えた。湖では、釣り人がニジマス釣りを楽しんでいる。

家族連れがサイクリングに興じている。

ケンブリッジから北に車で約2時間のところにルトランド・ウォーターという湖がある。フィッシング、バード・ウォッチング、サイクリング、ウォーキング好きには有名な場所だ。

ここは、観光客も少なく、静かで落ち着ける環境ということもあり、自然好きの多くのイギリス人がホリデーに訪れる。

友人の妹の夫は、ルトランド・ウォーターの中島にある唯一のホテルで結婚10周年を迎えた。彼は、その記念日に妻へここでのホリデーをプレゼントした。

妻は、湖の見える部屋とレストランに感激し、今でもその日のことをはっきりと覚えていると話してくれた。ワインがちょっと高かったことも。

スタートしてビジター・センターまでの2.5km。ニジマスのフィッシング・ポイントを抜け、牧草地の中を歩いた。

春は、羊たちにとって子育ての季節。子羊たちが、ミルク欲しさに少しかん高い声で「メーメー」と鳴きながら母親の周りを走り回っている。

母親は、相変わらずマイペースに草を食んでいる。いくら鳴いてもミルクを飲めないことにしびれを切らしたか、子羊は母親の乳房を目指して突進していった。

体当たりを受けた母親は、驚くことなくミルクを静かに与えていた。時々立ち止まって眺めるヒツジの様子や風景に穏やかな気持ちにさせられる。

歩みを先へ進めた。湖のほとりに並ぶ林(woodland)が見えてきた。林の中は一面に「ブルーベルの青いじゅうたん」が敷かれ、別世界が広がっていた。

3月にイギリスへ訪れたときにブルーベルを初めて知った。

ガーデンに連れて行ってくれた友人に教わった。3月は、冬の花であるスノードロップスやシクラメンが満開を過ぎ、散り始めていた。春の花が咲くにはまだ時期が早かった。

しかし、花壇の中には、花は咲いていなくても葉は茂り、ちらほらとつぼみを付けているものもあった。友人は、その葉やつぼみを見て

「もうすぐ咲きそうね」

などと言いながら花の名前を教えてくれた。そして、ガーデンの一角にある高い木が茂っているところに入っていった。木々の日陰になっているところに青々と茂る植物の群落があった。

花を付ける前のブルーベルだった。

友人もこの場所にブルーベルの群落があることを知らなかった。初めて知り、驚いた様子だった。友人は、少し興奮気味に

「4月ごろ、このあたり一帯はブルーのじゅうたんになるはずよ」
と言った。

私は、何のことか分からずにいた。友人に、花の名前と形状を教えてもらい、この植物は、青い花が咲き、名前から花はベルの形をしているだろうと想像し、なんとなく思い描いてみた。それより、それを見つけた友人のうれしそうな表情が印象的で一度そのブルーのじゅうたんを見てみたいと思った。


それから4年後の6月にイギリスに行ったとき、2回目のブルーベルを見た。花が咲いている時期は4月から5月の間であることを知っていたので、その時期に行きたかったのだが、都合により少し遅れてしまった。

どこかに咲き遅れたブルーベルはないかと淡い期待をしてガーデンを回ったが、どこに行っても散った後だった。半ばあきらめかけていた。

ブルーベルの花
イギリス南西部のエクス・ムーアを車で走っていた。ムーアの周辺は林になっており、その林道を通っていた。車の窓を開けっぱなしにして運転していた。

6月のイギリスは、晴れると湿度も低く、さわやかである。

気持ちのいい林の風だった。

坂道を登っているときに車道の脇に咲くブルーベルの花を見つけた。

思わず車を止め、走り寄った。

すでに満開の時期は過ぎており、花が付いているブルーベルはわずか4~5本だった。花は、かろうじて咲いている感じだったが、実物を初めて見たことに感動した。


次にブルーベルに会ったのは、ガーデンの仕事を手伝うボランティアに参加したときだった。

2人1組でブルーベルの球根を植えた。

私は、ロブと一緒に作業を行った。ロブがスコップで30cmの深さの穴を掘り、私がそこに5~6個ずつ球根を等間隔に置き、土を被せる。

途中、交代をしながら丸1日かけて約1,000個の球根を植えていった。2cmくらいの楕円形をした球根をガーデンの一区画に植え続ける。2~3年後の春にはここ一面がブルーで染まるのだろう。それを想像し、私はうれしくなった。

その横でロブは、黙々と穴を掘っていた。

ロブにブルーベルの花がじゅうたんのように咲いている所を見てみたいと言った。

ロブは、さほどめずらしくもないといった口調で

「春に林の中に行くと見られるよ」

とそっけない答えだった。

時期さえ合えば、必ず見られる。そう確信して、まだ見ぬブルーのじゅうたんに思いを募らせた。


それから2年後、春をイギリスで迎える機会に恵まれた。そして、4月中旬のルトランド・ウォーターで初めて「ブルーのじゅうたん」を見ることができた。

林の中に陽射しが葉の間から差し込んでいる。風が吹くとその光が林の中を照らして回り、ブルーがいっそう鮮やかになった。花に顔を近づけるとほんのり甘い匂いがした。細い茎に咲く小さなブルーの花が風に吹かれてしなやかに揺れる。可憐に咲く野の花だった。

やっと見ることができ、うれしかった。でも、あとでこのじゅうたんがブルーでなくなる日が近づいていることを知った。


4月中旬から5月末が、見ごろのブルーベルの花。

春を告げる花としてイギリス人に親しまれている花だ。

ヒアシンス種に属し、野生のヒアシンスとして知られている。湿気の多い場所を好み、林(woodland)の中や海岸沿いなどに生息している。寒さの残る春先に急速に生長する特長を持っており、それが他の植物の侵入から身を守るのに有利に働いているとされている。

分布は、イギリスを中心にヨーロッパの北西部の海岸沿いの一部で見ることができる。かつて、製本や襟に付ける糊の原料に使われていた。そのため、激減した時期があった。

そこで、ブルーベルを守るため、現在は、無断で花を採取したり、球根を掘り起こしたりすることは違法行為とされている。

しかし、イギリスが原種のブルーベルは、今、別の理由で危機に直面しているのだそうだ。外来のスペイン種のブルーベルが、イギリス国内をすごい勢いで侵しているからである。

スペイン種は、イギリス種より大きく、丈夫で真っ直ぐな茎を有している。薄いピンクの花は、見分けが付きやすいので見かけたら抜くよう呼びかけている人たちもいる。

どれくらいピンク色が広がっているのか詳しいことは分からない。自然は、ゆっくりと、そして、確かに進んでいく。ピンクとブルーの入り混じるじゅうたんは、どれくらい先の模様なのだろうか。ゆっくりと変化していく自然の中で、気づかないうちに失われていくものがたくさんあるのだろう。


ブルーベルの咲く林から湖畔へ出ると、ニジマスが春を喜ぶように水面を「ピシャ」と飛び跳ねていた。ブルーベルの花が春の到来を告げている。イギリス国内が花の香りであふれる季節がもうすぐやってくる。

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