英国のカントリーサイドめぐり

イギリスで過ごしたクリスマス・イヴ、クリスマス、ボクシング・デイ Christmas

クリスマスは、みんなの楽しみである。

子供たちは、クリスマスプレゼントが待ち遠しいし、大人たちも家族と過ごすこの日を待ち望んでいる。


バリー・セント・エドモンドの大聖堂で行われたクリスマス・イブのミサに参加した。

ここは、巡礼者が訪れていた歴史は古く、大聖堂となった1148年以来、今日まで続いている由緒ある大聖堂である。

教会内には、ケンブリッジのキングス・コレッジとカンタベリー大聖堂を建てたチュダー朝期の偉大な建築家、ジョン・ウォステルによる優雅なデザインの身廊やオックスホードのF.E.ホワードが手がけた主教座がある。


午後7時開始の30分前に教会に着いたが、すでに、多くの参列者であふれており、空席を見つけるのが難しいほどだった。 北風の吹く寒い外から約1000人の参列者がいる教会に入ると、人の熱気で眼鏡が曇るほどだった。

やっとの思いで席を見つけ、膝枕を確認した。

かろうじて聖歌隊が見える位置の席だった。

ざわざわとした館内が、司教と聖歌隊の入場で一気に静かになった。

教会の一番後ろから参列者たちの間をゆっくりと司教たちが主教座に向かって歩いてくる。

司教の言葉でミサが始まった。

そして聖歌隊の素晴らしい歌声が天井の高い教会内を響き渡った。教徒ではない不心得者の私であるが、心に染み入るような歌声に、スーッと気持ちが清められていった気がした。

ミサは、9つの教えとクリスマス・キャロルで構成されていて、1つの教えは、司教のお言葉、聖歌隊の歌、そして、参列者を含めた全員での合唱の順番で行われた。1つの教えが行われるごとに立ったり、膝をついたりと周りに合わせて祈った。

始まる前に配られていた歌詞カードを見ながら合唱し、頭をたれてお教えを仰ぐ。厳粛な雰囲気の中、1時間ほど行われた。

最後にクリスマス・キャロルを歌い、ミサが終わった。

その瞬間、全員の表情がゆるみ、教会内が安堵感で包まれた。無事に今年もクリスマスを迎えることができた喜びであふれていた。笑顔でいっぱいになり、静かに幸せな気持ちが込み上げてくる。

教会を出るときに司教が一人一人と握手を交わし、

「メリー・クリスマス」 と声をかけていた。



クリスマス当日、イギリスの友人の妹夫婦宅でディナーをご馳走になった。

ディナーは、家族がそれぞれ料理を持ち寄り、家族みんなで食卓を囲む。 友人は、前日に仕込んだ手作りハムなどの前菜を抱えて妹の家に向かった。

妹夫婦は、メインの特製七面鳥を前日からオーブンで焼いていた。

ときどきオーブンから取り出して七面鳥の焼き具合を見ながら、表面が乾かないように七面鳥から出る油を表面にかけていた。

「この作業を一晩通してやるのだよ」

七面鳥の当番をしている妹の夫が教えてくれた。そろそろ焼き上がる頃だと取り出して満面の笑みでキツネ色にこんがりと焼き上がったメイン・ディッシュを見せてくれた。

七面鳥の中にはいろんな野菜が詰め込まれていた。

つややかに光る七面鳥をオーブンから取り出すと部屋中に煮詰まった野菜と七面鳥のこうばしい匂いが充満した。その香りに引かれて家族全員が集まり出来具合をあれこれ言っていたが、全員の表情は満足げだった。

デザートは、友人の両親が、3ヶ月前から仕込んだという手作りのクリスマス・プディング。

初めて食べた私には記憶に残る、とても印象的なデザートとなった。

クリスマス・プディングは、19世紀にビクトリア女王の夫であるアルバートと共にドイツから渡って来た。それまでイギリスでは、クリスマスには、ミンチ肉を包んだプラム・プディングを食べていたそうである。

ナッツとドライフルーツがいっぱい詰まった黒色のケーキにヒイラギの葉と赤い実だけのシンプルな飾り付けをする。食べる直前にブランデーをかけて火を付け、青い炎がゆらゆらとし、香りを高める。

とても香ばしくて美味しいものである。

さらに、プディングを食べる時には、もうひとつの楽しみがある。

それはプディングを作る時にコインを1枚入れておく。そして、1~2cmの厚さに切って食べる時、中からコインが出てきた人には翌年幸運がもたらされるという習慣である。

コインの代わりにリングを入れておいて、それを引き当てた人は近いうちに結婚するというのもある。

プディングを食べる前に両親が、中にコインが入っていると言った。みんなの口の動きがもぞもぞとゆっくりとなった。食べている様子をお互いに見合う。

口を開くことができないので言葉で言い合うことはないが、ワクワクしているのを目で表している。口の中では舌が左右に動いているのだろう、左右の頬が交互に膨らんだり、しぼんだりしていた。

そして、友人の母親がコインを引き当てたところでみんなの口もいつも通りの動きに戻り、再びにぎやかになった。

ディナーの後は、プレゼントの時間だ。2人の子供らが交互にクリスマス・ツリーの下に山のように積まれたプレゼントを無作為に拾い上げそこに書かれた名前を読み上げた。

名前を呼ばれた人は、嬉しそうにそれを受け取った。子供は、プレゼントに自分の名前を見つけると次のプレゼントを拾い上げるのを忘れてはしゃいだ。

いつまでも幸せのオーラに包まれているような心温まる夜が遅くまで続いた。



12月26日。この日はボクシング・ディと言い、昔使用人に贈り物の箱(ボックス)と共に休みを贈った日として、使用人に感謝する日なのだそうだ。

イギリスで恒例のボクシング・デイ・ウォーキングに友人と一緒に参加した。

10:00に街の中心にあるバス停に集まる。どんよりとした曇り空。時折吹きつける冷たい風と霧雨に、イギリスの冬は寒いなあと身をかがめてスタートの時を待っていた。

集まっている人たちは、年輩の方を中心に50人ほどだった。みんな昨夜までのクリスマスの話題で盛り上がり、寒さを感じさせない。中にはTシャツにウィンドブレーカーだけの人もいた。

寒いのがあまり得意でない私は、イギリス人の服装にはいつも驚かされてばかりいる。

ウォーキングを主催しているグループのリーダーが自分のペースで歩いてくださいなどと挨拶した後、スタートした。

街の中心から郊外に向かってゆっくり歩きはじめた。

牧場の脇や林の中を歩く。他の参加者から声をかけられ、一緒に話しながら歩く。

「いいクリスマスだった?」

「クリスマス・プディングを初めて食べたよ。おいしかったよ」

だんだん体が暖かくなってくる。お互い話しがはずみ、さらにどんどん歩き続ける。どのくらい歩いただろうか、ペースも速くなっている。歩き始めた頃にあった列はなくなり、4~5人のパーティーがいくつもできていた。



終わりに近づいてきたころキツネ狩りをしている人々を見かけた。

キツネ狩りは、もうひとつのボクシング・ディの恒例行事である。

銃声の合図と同時に猟犬が吠え立てながらキツネを追いかける。実際にキツネを追いかけている姿は見なかったが、数十匹の黒毛の猟犬が目の前を怒涛のごとく通り過ぎていった。

牙を剥いて向かってくる猟犬に思わず立ちすくむほどだった。

猟犬に続いて、ハンターが馬に乗ってやってきた。ハンターは、乗馬用の帽子、黒地に2本の赤いストライプのジャケット、そして黒いブーツを履いていた。

左手で手綱を操り、右手に鞭を構えている。ハンターは、少し離れた所にいる同士に何か叫んでいた。

見たところ、数十匹の犬に2~3人のハンターが付いていた。彼らは、それぞれの位置から同士に状況を伝え、さらに猟犬に指示を出しているようだった。目の前にいたハンターはまわりを見渡し叫んだ後、馬を走らせた。


キツネ狩りは、300年以上の歴史がある貴族の冬のスポーツである。農作物や家畜に害を与える害獣を退治するという名目で、貴族である大地主が始めたといわれる。

ハンターたちは銃を用いず、呼び笛や掛け声で猟犬を操作する。そして、キツネを追い込んで、かみ殺させる。通常、頭や尻尾は記念品、胴体は猟犬の分け前となる。

このため、動物愛護団体から「猟犬にかみ殺させるのは残酷。スポーツでキツネを殺すのも時代錯誤」との非難が続出していた。

1949年に初の禁止法案が議会に上程された。 英政府によると、猟犬や馬の飼育など、キツネ狩りから恩恵を受けている農民の数は約8000人。愛好者の数は約120万人。禁止反対を主張する人たちも多い。

禁止反対論者と禁止支持論者の対立が続く中、キツネ狩り禁止法案は2004年11月に成立した。

この結果、この2年前に同法を定めたスコットランドに続き、イングランドとウェールズの両地方でも、2006年2月までに全面禁止となる。


私は、ハンターと猟犬が走り去るまでそこにいた。

気付くと、後ろから追いついた別のグループも一緒に見ていた。ハンターの姿が見えなくなり、再び歩き始めた。猟犬らの姿は見えないが、吠えている声が嵐の時の押し寄せる波の音のように聞こえている。気になって仕方がなかったので、ときどき後ろを振り返り犬の軍団がこっちに来てないことを確かめながらしばし歩いた。



吠える声が聞こえなくなったころ、蝶好きのおじさんに声を掛けられた。

初めは、「どこから来たのか」など他愛のない話しをしていたが、趣味の話しをしたときにおじさんが蝶の収集家であることを知った。

おじさんは、灰色のチェック柄のハンティング帽子を被り、紳士な身なりをしていた。

おじさんの話では、イギリスで蝶が一番多い場所は、コーンウォールの先にあるシシリー諸島だそうだ。シシリー諸島で最も大きい島であるセント・マリー島を歩くといたるところで何種類もの蝶が乱舞する様に出会い、幻想的な世界が広がっている。あの光景は忘れることができないと言っていた。

今は、自分たちが暮している地域に生息する蝶を調べているのだと教えてくれた。そして、蝶を保護する活動にも参加しているそうだ。いつまでも蝶を見ることができる環境を守っていきたいのだと、終始、おだやかな口調で話してくれた。

蝶について知識のない私にも興味深い話だった。おじさんとはウォーキングのスタートとゴール地点であるバス停まで一緒に歩き、そこで別れた。


「イギリスのクリスマスはどうだった?」 

と聞かれた時、私は必ずクリスマス・イブからボクシング・ディまでのことを話すようにしている。日本にボクシング・ディはないのでその由来と恒例行事も一緒にして。


クリスマス・ディナー

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