英国のカントリーサイドめぐり

ワーキング・ホリデー in ナショナル・トラスト Working Holiday in National Trust

イギリス南西部の街、プリマス(Plymouth)に程近いヤーム&エーボン(Yealm and Avon)で行われたナショナル・トラストのキャンプに参加した。

これから1週間、林の中のコテージで寝食を共に過ごす。

参加者は、9名。

リーダーのジョナサンが、イングリッシュ・ジョークを飛ばす。初対面でお互いに緊張している雰囲気が、和やかになった。

ミルクティーを飲み、一息つく。

朝晩の食事は、2~3人のグループごとに当番で作る。

朝、当番のグループは、シリアルやトースト、紅茶をテーブルに並べる。それだけでは足りない人の為にベーコンを焼き、ゆで卵を作る。

当番以外の人たちは、起きた順に食事を済ませる。

朝食を済ませると、ランチのサンドウィッチを各自で作る。自分が好きなものを挟んでランチボックスに詰め込む。サンドウィッチの他にオレンジやバナナなどのフルーツ、チョコレート、クリスプスをリックサックに入れる。

最後に紅茶を水筒に注ぎ込み、準備完了となる。

みんなの準備が整い、ミニバスに乗って作業場所に向かった。


昼間は、自然保護活動を行う。

活動内容の主なものは、石垣の修復、海岸線の保全、湿地や川の保全、動植物の生息地の保護、城や庭園などの文化的遺産の保全などがある。

参加する場所と季節よって活動内容は変わってくる。参加する前に内容は確認できるので、自分が興味のある活動内容を選択できる。


期間中に行った活動は、カントリーサイドの牧草地でよく見かける石垣の修復だった。

ピーターラビットで知られている湖水地方。かの地で見られる人の背丈ほど積まれた石垣をご存知の方も多いだろう。

この石垣は、イングランドとウェールズ地方に、合計80キロメートルにも及ぶ。中には、鉄器時代から残っているものもある。イギリスの歴史的遺産であり、自然風景の一部にもなっている。

さらに、動植物の住みかとしても重要なものである。

かなり前に建てられた石垣は、所々崩れ落ちている。そのため、その箇所を建て直す作業をおこなった。 崩れ落ちている箇所は、約9メールくらいの長さにもなる。それを1メートルずつに区切る。ペアーに分かれて区切った1メートル幅の石垣を作り直す。


一緒になったミッシェルは、おっとりとした性格ではあるが、仕事はテキパキとする人だった。 崩れかかっている石垣の石を一つずつ降ろし、パズルをはめ合わせるようにして、積み上げていく。

2人で 「これがピッタリだ」とか、 「もう少し平らな石を置いて安定させた方がいい」 などと言いながら作業していく。

暖かい日差しが、気持ちいい。

海岸に近い場所だったので、海風が強く吹くと砂埃が舞い上がる。砂が顔にかかり、うっすらと黒くなったお互いの顔を見て、笑ったりした。


ミッシェルは、ロンドン郊外に住む会社員で、1週間の休暇を利用して参加していた。参加するきっかけは、ミッシェルが住む近くにキャンプを主催している団体のプロパティー(ガーデンだったと言っていた)に週末などによく行っていた。

前から興味はあったので、年に2回取れる長期休暇を使って参加した。 石を積みながらお互いの話しをした。

ミッシェルの最近の関心は、健康・自然食について。

イギリス人は、油分と糖分の摂り過ぎで適正な体重を越えている人が多いだとか。

「日本人の平均寿命は幾つなの」

興味深げに聞いてくる。

「約80歳だよ」

驚いた表情になる。

「イギリス人は、早死にね。平均寿命は70歳よ。
日本人は、体型の細い人が多い。旅行者を見てもそうだし、雑誌やテレビでも日本人を見たことがある。日本食は、健康にいいのだと思う。」

と、ミッシェル。

話しが始まると尽きることはない。さらに、おしゃべり(chat)しながらの作業は、気付かないうちにけっこう進んでいた。楽しい。


「ティータイム!休憩にしましょう」

ジョナサンの元気な声が響く。水筒に入れて持ってきた紅茶でのどを潤す。仲間が持ってきたビスケットをもらい、くつろぎの時間だ。うっすらと汗をかくほどの陽気で、すがすがしい。

牧草地の中に座り込み、みんなで輪になって休む。誰かが話を始めると、会話は弾み、笑い声が絶えない。いつもの紅茶がより美味しく感じた。

ナショナル・トラストの職員らも輪に加わる。みんなの視線が彼らに一気に集まる。そして、質問が飛び交った。

「石垣は、いつ作られたものなのか」

「この辺りを歩いてみたいのだけど、景色の良いところを教えてくれない」など。

自然保護の活動に参加しているからと言って肩肘張ることもなく、自分が思ったこと、感じたこと、何でも話せる雰囲気がここにはあった。

もちろん、作業も自分のペースでこなしてよく、休みたい時は休んでもいい。

実際、石の積み降ろしで体力的に疲れたとき、私も作業場から少し離れた所で休んだ。カントリーサイドの景色をボォーと眺めて座っていた。心地よい時間だった。


夕方4時ごろに作業を終え、リーダーの提案で近くの海岸まで歩くことになった。 今回のリーダーは、いろんな所に行くのが好きなようで、1週間、毎日(オフの日は除いて)、作業の後、どこかに寄ってコテージに帰ることをみんなに提案した。

遺跡の見学や川沿いの村々の散策など。仕事の後にみんなでのんびりと歩いた。心豊かな暮らしにある時間の使い方のひとつを見た気がした。

牧草地から海岸までは、片道30分程度。

イギリス南西部によく見られる岩壁の海岸線が続いている。

私は、スイスから参加しているエイドリアと話しながら歩いた。

エイドリアはスイスの大学生で自然環境工学を学んでいる。イギリスには何度か来ているそうで、自然保護活動の勉強も兼ねて参加したそうだ。

明るい性格で、メンバーのムードメーカー的な存在だった。

ある時、コテージへの帰り道、道いっぱいに牛が歩いていた。ミニバスが通れないほどだった。いつまでたっても退こうとしなかった。

エイドリアはそれを見かねてミニバスから突然降りた。


スイス流に牛を退かそうというのだ。

「ハイホー。ハイホー。」

と高らかに声をかけ、手を叩く。

ミニバスのクラクションでもびくとも動かなかった牛たち。それらが、エイドリアの掛声と手拍子で動き出し、瞬く間に道が開けた。

ミニバスの中は拍手喝采。エイドリアは得意げに

「掛け声は、世界共通だね」と。

私とエイドリアの目の前を野生の馬たちが通り過ぎていく。スイスは海がないので、エイドリアは、海を見て感動していた。特に、海に沈む真っ赤に燃える夕日が好きだと何度も何度も言っていた。


1週間の内、1日オフの日があり、その日は、食事当番も休みになる。みんなでパブに食事に行くからだ。キャンプの場所によっては、近くにパブがあると毎晩のように行くこともあるが、今回の宿泊地であるコテージは林の中にあり、パブは近くになかった。

カントリーサイドのパブは、地元の雰囲気が色濃く出ている。料理は、地元で採れた物が多い。

みんなで行ったパブのオススメは、フィールド・マッシュルーム。

大きく広がったマッシュルームのかさの上に地元の野菜やチキンを添え、オーブンで焼いたもの。肉厚のマッシュルームが歯ごたえよく、噛むたびに味がしみ出る。チキンとも相性がよく、チキンとマッシュルームが口の中で絶妙にからみ合う。


1パイントグラスに注がれた地元のエールを飲んだ。

ビターな味が多いエールの中でも、わりとスッキリとした味で飲みやすかった。


コテージで毎晩、みんなが作った食事を食べながら話しをした。テレビはなく、食後のひと時は、話をしたり、本を読んだりしている。私が、参加した限りでは、食後は、毎日のように話が盛り上がっていた。日を追うごとに仲良くなるのが、楽しくて仕方がない感じで、話しが尽きることはなかった。

紅茶やワインを飲み、夜遅くまで話しは続く。イギリスの教育事情や職業、食べ物、BBCのドラマ、サッカー、キリスト教の宗派・・・1週間を通していろんなことが話題になった。

パブでの食事は、最終日だったこともあり、みんなやり終えた達成感と安堵感に満たされていた。私もいつもよりエールがすすむ。パイントグラスだとエールが流れ込むように喉に入ってくるので、すぐになくなってしまう。

パブの雰囲気が気持ちを高揚させているのか、みんなのおしゃべりはコテージで食事をしている時より弾んでいた。

昔の友達と再会しているような、1週間前に初めて会ったのが、信じられないくらいだった。


隣に座っていたルーシーは、ベジタリアン(菜食主義)の料理を食べていた。

「いつからベジタリアンなの?」

「中学生の頃からよ。だから、もう10年近くね」

「何かきっかけがあったの?」

「学校の友達に勧められたのが最初ね。それからいろいろな本を読んだりしたの。」

「家族もベジタリアンなの?」

「いいえ。家族の中では、私だけ。両親や兄弟は、違うの。だから、毎日、自分の食事は自分で作り、家族とは違うものを食べているの。もちろん、食べる時は、一緒に食べるけどね」

ルーシーは、動物愛護精神と地球環境問題に共感して、ベジタリアンになったそうだ。

履いている靴も皮製品ではないものを選んでいる。


ベジタリアンになるきっかけのほとんどは、口コミだそうだ。イギリスではかなり広がっている感がある。レストランやスーパーマーケットでベジタリアン向けのメニューや食材をよく見かけた。それで、私自身も興味があった。

ルーシーの話しでは、ベジ(ベジタリアンのこと)は、増える傾向にあるそうだ。健康や精神のためなど個人によって理由はそれぞれ違っていることもあるけれど、それでいいと思っているのだそうだ。

結果的に、環境や動物愛護に繋がっているから。

ルーシーは、今は、環境保護に協力したいと思う気持ちが強くなっているのだそうだ。

「少しずつでも力になれることが、うれしい。このまま続けていくと思うわ」と。


翌日の朝、全員でコテージの掃除をして、キャンプの全日程が終わった。

林の中のコテージの周りを歩いた。

朝日が木の間から差し込み、ぎっしりと敷きつめたコケを照らしていた。 自然を満喫し、みんなとも仲良くなった。長期休暇を自然保護活動に参加して過ごすという私にとって新しい価値観、出会いがあった。


イギリスのカントリーサイドの自然が守られている理由のひとつだと思った。自分たちの暮す自然環境は、一人一人が持っている少しずつの協力で守っていくことができる。小さな協力が、大きな力となって大切なものが後世に残されていく。主催団体の理念にもある「一人から百万ポンド集めるより、百万人から一ポンドずつ集める」を帰りの電車の中で思い出していた。
車窓から見える牧草地の石垣が、どこまでも続いていた。

ナショナル・トラストとは

1895年に創設された民間の自然保護団体です。870キロ以上の海岸線と約24万ヘクタールものカントリーサイドを所有し、その景観や建造物等の保全活動を行っています。
所有する土地や建造物は、地域の人々の寄付や支援により買い取ったものです。
「1人から100万ポンドを集めるより、100万人から1ポンドずつ集めること」
を理念の1つとし、国からの援助に頼らず、自分たちで資金を集めて運営しています。海外会員も含め、会員数は200万人を超えています。

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