英国のカントリーサイドめぐり

湖水地方でウォーキングを楽しむ Walking

湖水地方を一度歩いてみたい。イギリスの本を見るたびに思っていた。

カンブリア(Cumbria)地方で活動するクラフトマン数名を訪ねるためにアンブルサイド(Ambleside)のユースホステルに3日間滞在した。

スケジュールを調整してウォーキングの日を1日決めた。

ユースは、ウィンダミア湖の目の前にあり、湖まで徒歩10秒。

ウォーキング当日の朝。

湖水地方ではめずらしく晴れ。

朝靄がかかる湖にやわらかい日の光が差し込み、幻想的な景色が目の前に広がっていた。湖に停泊してあるヨットの陰が、湖面に写り、ため息がでるほど美しい。水面の光と影の調和が、スローモーションのようにゆっくりと変化していく様子にしばし見惚れていた。

ウォーキング・コースは、アンブルサイドからホークスヘッド(Hawkshead)へ行き、フェリーでウィンダミアに渡るコースを選んだ。

途中、ヒルトップ(Hill Top)やいくつかの小さな村など見所がちょうどいい間隔であったからである。

湖をいろんな角度から眺めながら歩きたいというのもあった。秋も終わりに近い10月末の湖水地方は、観光客も少なかった。落ち葉が敷き詰められたパブリックフットパスを歩いた。

歩き始めは、湖の周りの林道を歩いた。時折、すれ違う人とあいさつを交わし、自分のペースで歩いていった。

50mほど先に、40歳代の兄弟がウォーキングしている後姿が見える。

林道を抜け、牧草地の中を通った。

ヒツジが草を食む牧草地の中を足元に気を配りながら進む。ヒツジたちは、私が歩いていることなど素知らぬ顔で草を食べている。

私は、広々とした牧草地をすがすがしい気分で歩き続けた。



イギリスの友人であるカレンに初めて

「ウォーキングに行きましょう」

と誘われた時、ウォーキングの楽しみとはなんだろうと思った。

健康のため、体力づくり、リフレッシュのため。単純にそんな理由を考えていた。

その後も何度か一緒にウォーキングに出かけた。いつも違う場所に行った。コースを前もって選んで行くことは少なかった。ガーデンに行った時や見晴らしのいい海岸線を見つけた時、そこには、パブリックフットパスがあった。

時間が許す限り歩いていた。

ごく自然な感覚でフットパスを歩き始めていた。

ノーホーク地方のB&Bにカレンと一緒に泊まった時も早朝にウォーキングをした。

B&Bから海岸までの片道1km。

B&Bから海岸までの間に湿地が広がっていた。

いろんな種類の鳥たちが、群れをなして頭上を飛んでいる。

湿地にできた池にはたくさんの鳥たちが羽を休めている。池のほとりにはバード・ウォッチングをする為の小屋があり、望遠鏡を担いで静かに入っていく人の姿があった。

私たちもときどき立ち止まり、池で戯れている鳥たちをじっと眺めた。無心になる瞬間だ。湿地に咲いている花を見たり、小さな池の中をのぞいたりしながら歩いた。

海岸と湿地の間には高さ5mくらいの土手があり、防波堤の役目になっていた。私たちは、湿地から土手に登り海と湿地を見下ろしながら歩いた。

海風がゴォーゴォーと音を立てて強く吹きつける。

髪がなびき、目を無意識に細めなければならないほどだった。
それを全身で受けて立っていると大地に足が着いているのをじんわりと感じた。

しかし、相手の言葉も聞こえないほどだったので数メートル歩いたところで湿地側に降り、土手の下を歩くことにした。

そして、バード・ウォッチング用の小屋に向かった。

小屋は、大きめの池のすぐ脇に建てられている。小屋に着き、中に入るとちょうど顔が入るくらいの大きさの木窓があった。そこからそっと鳥たちを眺めた。

鳥が驚いて飛び立たないようにみんな息を潜めている。

肉眼では鳥の種類までは見分けることができない。

それでもバード・ウォッチャ-らが、ひそひそ声で鳥の羽の色やくちばしの形を確認し合っているのを聞いて想像した。

しばらく眺めた後、小屋を出て再び歩いた。

そして500mほど先に見える土手が重なってできた小高くなったところまで歩いていた。

その時、突然、後ろの方で「ドーン」と銃声が響いた。


「狩りをしているのよ」

驚く様子もなくカレンが教えてくれた。

早朝に集まる鳥の群れを狙っているのだった。

狩人の姿は見えなかったが、無機質に落ちていく一羽の鳥の姿が見えた。

カレンと一緒に歩いて、ウォーキングの楽しみは自然が与えてくれるものだと思った。歩いてしか行くことができないところに行き、景色、動物、植物、色、形、匂い、風、雰囲気を歩くスピードの中で感じたからだった。



キャンプに参加していたとき、だれかが言った。

「そこまで歩いてみようか」

それで、海岸線沿いにあったパブリックフットパスをみんなで歩きだした。

穏やかな波が沖の方まで続いている。

先頭を歩いていた人たちが、見晴らしのいいところで思わず足を止める。岸壁に突き出た岩の上でくつろぐ野生のアザラシを見つけたのだ。アザラシは、海から上がって日向ぼっこをしている様子で、岩に横たわって気持ちよさそうにしていた。

時々、思い出したように背伸びをする姿がかわいらしい。アザラシは、岸壁の海岸線で海を覘き込むようにして見なければ見つけることはできない所にいた。前だけ見て歩いていたら、見つけることはなかっただろう。

海岸線を歩き終え、海辺の小さな村に行き着いた。みんなで村を見て歩いた。小さなお店が並んでいる。

「ティールームでお茶にしましょう」

村の本当に小さなメインストリートにあった唯一のティールームに入った。海を眺めながらのティータイムとなった。

岸に沿って停泊しているヨットが穏やかな波に揺れている。

傾きかけた日の光がヨットを照らし、海面に影を落としている。

みんな、いつものおしゃべりは控えめにして、紅茶を飲んでひと息ついている。ほほをさするように吹く海風が気持ちよく、ウォーキングの疲れもあってそのまま眠ってしまいそうだった。

ウェイトレスが運んできたケーキやスコーンの匂いでハッと目を覚まし、やはり食欲が勝るかとあらためて思い、目の前に置かれたスコーンににんまりとするのだった。

温かいスコーンにクロテッド・クリームとジャムを付けて食べた。スコーンは、ホームメイドだったと思う。みんなもレモンケーキやチョコレートケーキなど好みのものを食べている。

ティールームで疲れを取り、さらに小腹も満たされた。

カントリーサイドを歩く楽しみをここにも見つけた。とてもおいしいウォーキングだった。



さて、ヒルトップを越えるとウィンダミア湖が再び見えてきた。

一人で歩いているとついつい足早に先を急いでしまう。

歩くことに集中して足元ばかり見て歩いていた。

周りの景色を見ようとは思っているが、そう簡単に今まで染み付いた習慣を変えることはできない。

ヒルトップの丘を下り、フェリー乗り場に着いた。ウィンダミア湖を渡り、対岸のボウネス(Bowness)まで行くフェリーに乗る。フェリー乗り場で待っていると、ウォーキングをしてきたであろうおじさんのグループがやってきた。

他にも何人かのウォーキングのスタイルをした人たちがいたが、そのおじさんたちはやけに陽気だった。大声で笑い、騒ぎ立てている。トレッキング・シューズを履き、リュックサックも背負っている。ウォーキングの格好であることは確かだった。

私も含めて他の人たちは、ベンチに腰掛けて休んでいるのに、おじさんたちは私たちの冷たい視線など気に留めることなく、ずっと立ったままおしゃべりをしている。

おじさんたちは、フェリーでボウネスに渡り、歩いてどこかに行く様子だった。しかし、その歩みはのろく、プラプラしながら歩いている。

私は、早々に追い抜きウィンダミアに向かった。
ウィンダミアの町に着くとパン屋で翌日のサンドウィッチ用のパンとショートブレッドを買った。

買い物を終え、店を出たところでさっきのおじさんグループが、こっち方向に歩いて来ているのが見えた。相変わらずおしゃべりしながらのろのろと歩いている。

すると、パン屋の手前にあるパブにその流れのまま入っていった。


おじさんたちが陽気だった理由は、ユースに帰ってから分かった。

ユースの壁に貼ってあるウォーキング・マップを見ていると、パブを巡りながら歩くコースが紹介されていた。 なるほど、ウォーキングに出かける理由はここにもあったのだ。

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